事業承継

Business succession

100年の歴史を未来へつなぐ、計画的な事業承継

計画的な事業承継は、経営理念の浸透から始まる

100年の歴史を未来へつなぐ、計画的な事業承継

山形県高畠町の実り豊かな地で、1923年の創業から100年以上の歴史を刻む株式会社菓子工房COCOイズミヤ。代表取締役の庄司薫氏が築き上げてきた経営指針に基づく会社づくりは、今、事業承継という新たな段階を迎えている。勤続19年間の娘さんが後継者として意思を示し、さらに生え抜きの取締役がそれを支える体制が整った。庄司氏は3年後の承継を見据え、昨年から事業承継計画の作成に着手。地域の中小企業にとって事業承継は最大の経営課題の一つだが、同社の取り組みは「後継者が戻りたくなる、継ぎたくなる会社づくり」という視点で、未来の経営を計画的に準備している点で非有情に注目したい地域オピニオンリーダー企業である。

 

庄司氏自身の経営者人生は、決して順風満帆ではなかった。パティシエとして腕を磨き、家族とともに菓子作りに励んできた2006年、家族の病気が相次ぎ店を半年間閉鎖。再開を機に法人化し、突然経営者に。当時は経営知識がないまま社長の座に就き、経費増や社内の意見対立に苦しんだが、転機となったのは山形県中小企業家同友会との出会いだった。2011年に経営指針セミナーを受講し、「心に響くおいしさで元気と笑顔を届ける」「人々の想いをつなぎ地域に夢を広げる」という経営理念を策定。初めは家族や社員から反発もあったが、理念を貫く覚悟を決め、全社員参加の月次会議で経営状態や目標を共有する経営スタイルを確立していった。

経営指針が生み出す「働きがい」と組織の成長

庄司氏が経営指針の実践にこだわったのは、パティシエから経営者になったことで気づいた本質的な問いがあったからだ。全員女性のパティシエたちが、親の介護や子育てをしながら働いている現実を目の当たりにし、「どうしたら生き生きと働けるのか。どうやったら安心して働けるのか」と考えた。そして社員とともに、家族に何かあったときに気兼ねなく休め、安心して働ける会社づくりを話し合った。ホッケーの試合に出たいという社員の申し出を全員で応援し、若い人には仕事以外でもやりたいことをやる人生を送ってほしいという思いを共有した。

 

こうした経営指針に基づく組織づくりは、確実に成果を生んでいる。月次会議では全社員が経営状態や目標を共有し、トップダウンではなく社員一人ひとりが発言していく。入社2年目の社員は「とても発言しやすい雰囲気。経営に関する様々な数字もオープンにしているので、自分も社員の一人だという認識をあらためて実感できる」と語る。社員の定着率が向上し、組織は着実に成長。2023年の創業100周年に合わせて実現した新店舗「ココデカシェットイズミヤ」への移転は、単なる設備投資ではなく、社員みんなの夢を5年かけて実現したプロジェクトだった。3600平方メートルの敷地に木材をふんだんに使った平屋建ての店舗を建設し、厨房やカフェのほか、子どもを持つ社員のための保育室も併設。ブランドコンセプト「心がふれあい、身体が満ち足りるひととき」を体現する空間が完成した。

社員から取締役も誕生 娘の覚悟が示した事業承継の道筋

事業承継において重要なのは、後継者個人の資質だけではない。同社の特筆すべき点は、19年間勤めてきた娘さんが後継者として明確な意思を示したこと、そしてその娘を支える生え抜きの取締役が育っていることである。この立体的な経営体制は、長期的な事業の持続可能性を担保する主軸になっている。

 

実は娘さんへ対して、庄司氏は後を継いでほしいとは一切話していなかったらしい。役員候補としてではなく一社員として働き始めた娘さんが、経営に参画する意識を持つようになったのは、経営指針を実践する組織の中で成長したから。転機となったのは新店舗建設の計画が具体化した時だったそうだ。「銀行との関係性ややりとりは社長薫さんの仕事、後は私達みんなで頑張っていくから、ぜひ良い店作りましょう」。娘さんのこの言葉に、経営者として驚きと同時に、深い安堵を覚えたという。

もう一人の社員取締役は入社7年目時点で1度退社し、3年後にカムバック。組織化が進む中で、マルシェやキッチンカーなど地域とのコミュニケーションの輪が広がり、会社が成長を続ける過程で頭角を現した。庄司氏は立体的で筋肉質な事業承継とチームビルディングを目指し、この社員に取締役就任を打診。経営指針の実践によって社員が経営に参画する風土が醸成されたからこそ、生え抜きの取締役が育つ土壌が整った。現在、庄司氏は3年後の事業承継を見据え、昨年から正式に事業承継計画の作成に着手している。後継者である娘さんは、この取締役とともに未来を描いていくが整いつつある。

「戻りたくなる、継ぎたくなる会社」をつくる経営指針の力

地域の中小企業にとって、後継者不在は深刻な問題である。しかし同社の事例が示すのは、「後継者が戻りたくなる、継ぎたくなる会社」をつくることこそが、事業承継成功の鍵だということだ。庄司氏は娘さんに対して、後を継いでほしいと話したことは一度もなかった。それでも娘さんが19年間会社で働き続け、新店舗建設という大きな投資の局面で「後は私達が返していく」と自ら意思表示をした背景には、経営指針を実践する・浸透させる会社の地道な取り組みがあった。

 

庄司氏は経営理念に「夢」というキーワードを何度も登場させている。これは「夢ケーキ」プロジェクトから影響を受けたものだが、子どもたちの夢を応援する活動を通じて、庄司氏自身も「夢を口にする、形にしてみる、話し合ってみる。それが夢をかなえる第一歩」という持論を実践してきた。新店舗建設の夢も、機会あるごとに口にすることで応援する人が現れ、実現していった。こうした会社の姿勢が、娘さんに「この会社を継ぎたい」と思わせたのだろう。

現在、庄司氏は3年後の事業承継に向けて、着実に準備を進めている。昨年から作成している事業承継計画は、単なる形式的な文書ではなく、娘さんとスタッフ全員ともに未来を描くための羅針盤となる。後継者は経営の孤独に苦しむことなく、明確なビジョンと支える仲間とともに、会社を発展させていくことができる。同社の事業承継は、単なる世代交代ではなく、経営指針に基づく組織づくりの延長線上にある。地元豊かな果物を活かしたケーキや焼き菓子、「夢ケーキ」プロジェクトなど、地域に根ざした温かな菓子文化を次の100年へとつなぐ準備が、計画的に進んでいる。

地域企業への示唆―計画的事業承継の重要性

株式会社菓子工房COCOイズミヤの事例は、地域の中小企業に重要な示唆を与える。事業承継を考えるとき、後継者探しだけに注力するのではなく、「後継者が継ぎたくなる会社」をつくることが先決である。そのためには経営指針を明確にし、社員とともに実践していく組織づくりが不可欠だ。また、後継者を支える生え抜きの幹部を育てることで、事業承継はより安定したものとなる。これこそが事業承継成功の本質的な要素だと言えるだろう。

 

高畠町の美しい自然に囲まれた新店舗「ココデカシェットイズミヤ」は、単なる菓子店ではなく、地域の人々が集い、子どもたちの夢を応援し、人と人がつながる場所として機能している。庄司氏が苦労の末に築き上げた経営スタイルは、3年後新しいフェーズへと移行する。経営指針を実践し、計画的に事業承継を準備する同社の取り組みは、地域の中小企業が持続可能な未来を描くためのモデルケースと言えるだろう。

株式会社菓子工房COCOイズミヤ

山形県東置賜郡高畠町大字亀岡4676
0238-20-6668
https://www.cocoizumiya.com/
山形県東置賜郡高畠町に拠点を置く老舗洋菓子メーカー。1923年創業の伝統を継ぎ、地元豊かな果物(デラウェアぶどう、ラ・フランスなど)を活かしたケーキ、焼き菓子、チョコレートを製造・販売。2024年に高畠町亀岡に移転し、カフェ併設の新店舗「ココ・デ・カシェット イズミヤ」をオープン。子どもたちの夢を応援する「夢ケーキ」プロジェクトも展開し、地域に根ざした温かなお菓子文化を育む。

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