「社長は偉い」のではなく“役割”

Business Plan
生え抜き社長 片桐氏が整えた経営軸と東北テレネットの次の10年
電気通信工事および電気工事業を手がける東北テレネット。片桐社長は親子承継ではなく、生え抜き社員として現場を知り、組織の内側を知り尽くしたうえで社長に就任した。就任から6年目。さらに同友会「経営指針をつくる会」修了生として、経営を言葉にし、計画として形にすることにも正面から向き合ってきた。
片桐氏の語り口は、派手な成功談よりも、会社を前へ進めるための“地に足のついた手触り”に満ちている。会社の維持発展をどう実現するのか。経営計画をどう動かすのか。社員とどう向き合うのか。そこには、業界を問わず多くの経営者が共感できる、普遍的なテーマが通底している。
最初の使命は「引き継いだ会社の維持発展」——守るために整える
社長就任にあたって片桐氏が最初に据えたのは、「引き継いだ会社を維持し、発展させる」という一点だった。
維持とは、ただ現状を保つことではない。事業環境が変わり、人が入れ替わり、価値観も多様化していく中で、会社という器を壊さずに次へ渡すこと。そのためには、場当たり的な対処ではなく、会社としての“軸”が欠かせない。
片桐氏の経営は、まずその軸を整えるところから始まった。守るために、整える。発展させるために、揃える。社長就任の決意は、静かだが強い方向性として、その後の打ち手に一貫して表れている。
就任直後に見えた課題——「仕事の仕方」が人によって違う会社
片桐氏が就任当初に直面したのは、業務の進め方の定義が明確でなく、仕事のやり方が人それぞれに分かれていたことだった。
こうした状態は、現場の工夫や経験値によって“回ってしまう”一方で、品質や判断が属人化し、組織としての再現性が弱くなる。誰かが欠けた瞬間に、業務が滞るリスクも高まる。
そこで片桐氏が重視したのは、細かな手順を一律に縛ることではなく、「会社としての最低限の所作や考え方」を定め、共通言語にすることだった。
電気通信工事・電気工事という現場型の事業では、個々の技術や経験が価値になる。しかし会社としての成長や次の承継を見据えるなら、“個”の力を活かしつつ、組織としての軸を揃える必要がある。片桐氏の問題意識は、まさにそこにあった。
経営計画は「幹部の成長」があって初めて動く——今期の重点は幹部育成
経営計画は、つくっただけでは前に進まない。片桐氏はその現実を、身をもって受け止めている。
計画が実行に移されるかどうかは、現場を動かす中核である幹部層の成長に左右される。どれほど明快な方針を掲げても、幹部が自分の言葉で咀嚼し、判断し、周囲を巻き込みながら進めていかなければ、計画は“紙の上”にとどまってしまう。
そのため片桐氏は、今期から幹部育成に取り組む方針を明確にしている。
加えて、社長自身も「人は忘れる」という前提に立ち、定期的な数値計画のチェックを欠かさない。計画を“記憶”ではなく“運用”として回していく姿勢は、経営計画を形骸化させないための現実的な知恵でもある。
仕事の意味をつなぐ——「デジタル社会に貢献する」というミッション
東北テレネットが担うのは、社会の基盤を支える仕事だ。にもかかわらず、成果は目に見えにくい。むしろ「何も起きない」ことが成果である場面も多い。
だからこそ片桐氏は、頻繁ではなくとも、仕事の成果に対する声がけを意識している。現場の積み重ねを正しく認め、価値として言語化することで、社員が自分の仕事に意味を見いだせるようにするためだ。
同社は「デジタル社会に貢献する」というミッションを掲げている。
工事を“作業”で終わらせず、社会への貢献と結びつける。社員にとっての仕事の意味へと接続する。これは、採用難や人材定着が課題となる時代において、どの業界にも共通する「働く意義の設計」に通じる取り組みだ。
「社長は偉いのではない、役割だ」——学びが変えた視点と、10年ビジョン
片桐氏が「経営指針をつくる会」で強く受け取ったのは、「社長は偉いのではなく、役割である」という考え方だった。
社長という立場は、とかく“上”に見られがちだ。しかし本質は、社員や地域に対して何ができるかを問い続け、会社の未来を描き、意思決定し続ける役割である——その捉え直しは、経営の姿勢を整える背骨になる。
その延長線上にあるのが、10年ビジョンを描くことの重要性だ。日々の現場課題に追われていると、視線はどうしても短期に寄る。だが、会社を維持し発展させるには、長期の方向性を示し、組織が迷わない地図を持つことが欠かせない。片桐氏の経営は、そこへ視線を戻し続ける。
生え抜き社長の孤独——支えになった「社長の味方です」の一言
親子承継ではない生え抜き社長には、特有の難しさがある。
身内に相談できない。社員にも相談しづらい。かつて同じ目線で働いていたからこそ、距離の取り方も難しくなる。片桐氏は、その孤独を抱えながらも「自分で自分を高めていくしかない」と捉えている。
そんな中で支えになったのが、ある社員の「社長の味方です」という言葉だった。
経営者にとって、最終的な決断は常に孤独を伴う。それでも、味方がいると感じられた瞬間、人はもう一歩だけ踏み出せる。会社を動かすのは制度や計画だけではない。人の言葉が、経営を支える現場のリアリティがそこにある。
片桐氏は現在、主軸事業だけでは市場に限界があると見据えている。社員の豊かさと会社の繁栄を目指すには、新規事業など新たな収益の柱が必要になる——その問題意識は、業界を超えて多くの経営者に共通するものだろう。
同友会で指針をつくった当時の自分の気持ちを裏切らない。熱い気持ちを忘れずに進む。
生え抜き社員として会社を知り、社長として会社を未来へ運ぶ。片桐氏の歩みは、経営とは肩書きではなく、役割を果たし続ける営みであることを、静かに物語っている。
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